魔が差す

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俺は、久しぶりに日本という国へやって来た。
前回は、確か日本が戦国時代で、南蛮船に乗り、天主教の伊留満に化けて渡来した。
のちに芥川龍之介とかいう作家が俺を主人公に短編小説『煙草と悪魔』を書いた。だが、その話は今、どうでもいい。
今回の来日は、悪魔である俺が持つ邪念、まさしく魔を広めに来た。
よく日本人は、考えていなかった、誤った判断や行動をすることを「魔が差す」というが、あれは完全に濡れ衣だ。日本人が勝手に魔のせいにして、悪魔に責任をなすりつけている。不愉快きわまりない。正真正銘の魔を日本人にわからせてやる。

悪魔は、魔導書に魔方陣を書き込むと、呪文を唱えて魔を解放した。
それから数日後、犯罪が多発し、犯人を捕まえたところ全員が「魔が差した」と言った。
陰陽師である安倍晴明の末裔は、この異変に逸早く気づき、魔除けの呪符である五芒星を使って魔を封じ込めた。悪魔も忽然と日本から姿を消した。
その他
公開:21/02/05 19:31
戦国時代 南蛮 天主教 伊留満 芥川龍之介 『煙草と悪魔』 魔導書 魔方陣 安倍晴明 五芒星

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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