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「龍樹が二十歳になったら、教えるよ」
右手の甲にうっすらと残った紋章のようなアザの所以について、八つの時に僕は訊いたのだ。だが二〇一九年の暮れ、約束の年を目前に、伯父は突然消息を絶った。

それからコロナがあり、個人的な問題(青春と、その終わりとの狭間に起こる諸々の)を抱えてもいた僕は伯父の行方を気にかけつつも、終ぞ具体的な行動には繋げられずにいた。

二〇二〇年の秋、破滅的な恋路から生還した僕は、同時にあらゆるものを失っていた。
辛うじて目を開き、息は続けていたが、見えるものはなく、感じることもなかった。

ある休日の昼下がり、目的地の無いまま山手線に乗り込み本を読んでいると、隣に人が座った。車両は空いているのに、どうして隣を選ぶのだろう。おまけにマスクもしていない。
「伯父さん……」
「いい感じで空っぽだな。ついてこい」
扉が開く。

そんな風にして、僕らの長い、長い旅が始まったのだ。
その他
公開:21/02/03 22:00
更新:21/02/03 21:50

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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