海と空の反応式

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空を溶かした海が天を目指して揺蕩う青をざんざざんざとかき混ぜる。攪拌されて細く伸び魚に突つかれて分離した悲しみは深く深く底に積もり、シーラカンスと共に今はもういない命たちの喪に服した。
透明になった空はキラキラと光を弾いて水面に踊る。訪れる風に笑い雨に跳ねるうち、すっかり軽くなったからだは見えない粒になった。
ここでは自由、だけど何もない。心許ない不安は寂しさとなり、極性になって違う誰かと求め合う。交わり結びつくともう、透明ではいられなかった。白く濁った空は大気の川を流れ、夢を映してもくもくと形を変える。抱えた願いをそのまま抱いて渦を巻く底で金床を戴きいっぱいに膨らみ、閃光と咆哮を合図に弾けて重力に引かれ、海に降り注いだ。
打ち上げられた貝殻の小さな海とほんの僅か滲んだ空を蟹が目を伸ばして覗き込む。そこにある悠久には目もくれず、砂をひとつまみすると泡をぷくぷくと吐き出した。
ファンタジー
公開:21/02/03 09:34

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