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ゾウの鳴き声だ。
と目が覚めて寝室のカーテンを開けてみる。鳴き声だと思ったのは解体工事の音で、激しく外壁が削られている国会議事堂が見えた。
快晴の空。花粉が飛びはじめたようですよと、ベランダに干したままの子が教えてくれる。さっきの音は花粉の鳴き声だったのかもしれない。
ぱうぉーん。
私は鳴き声のする場所をさがして玄関を開けた。こっち側は海でゾウなどいるはずがないと自分を笑う。
潮風の中に春を感じて、沖合のタンカーが海賊船に襲われているのが見えても、あとで通報しようくらいにしか思えなくて、まずは珈琲を淹れるためにキッチン行きの地下鉄に乗った。
ぱうぉーん。
「やましいことはなにもない」
不意に私は別れた男がテレビカメラに向かって発した言葉を思い出す。彼は政治家に金を渡して便器を買ってもらったとかで報道記者に囲まれていた。
私はパジャマのままキッチンで降りてゾウの背中を見送り、一句詠んで寝た。
公開:21/02/04 11:23

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