夜のしゃぼん玉

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澄み切った夜空の下。病院の中庭にでて、今日もしゃぼん玉をつくる。

ストローに息をそっと吹き込む。しゃぼん玉は形を揺らがせながら大きくなり、おぼつかなげにストローから放れた。
闇に漂うしゃぼん玉は、水族館のくらげに似ていた。虹色に透き通った輪郭が、昼間より鮮やかに浮かびあがる。月や星つぶが、しゃぼん玉の透明な体に取りこまれていった。星の光が滲んで震える。海蛍なら、たぶんもっと青い。
ストローをくちにつけ、今度はいきおいよく空に向かって息を吐きだす。細かなしゃぼんの泡つぶが、視界いっぱいに散ったかと思うと、引かれるように風のない空へと昇っていく。星と区別がつかないくらい小さくなるのを見ていると、足元の地面の感覚が消えた。体が軽くなって自分まで空へ引かれていく心地になる。水中に潜ると、こんな感じだろうか。
「行ってみたかったな、海」
上を向いたまま呟く。独り言のつもりだったのに、返事があった。
ファンタジー
公開:21/02/01 22:45
しゃぼん玉

見たい景色を文字で書いています。

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