とおくて、ちかくて

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ふと誰かを想ったその瞬間に、相手もちょうど自分のことを想っている、という時に使うらしい。

「たしかに一言で置き換えられる日本語ってないかもな。でもそれって、自分がそう感じたっていう気分的なもん?」

キブンテキ…と呟いた彼は、俯きつつも意味は分かったらしく、曖昧に笑ってみせた。

「ホント、ホント、ヨクアルデス」

ながらく忘れていたやりとりだった。高校のとき、同じクラスにやってきた留学生。ひと月ほどで帰ってしまったので、たいした思い出はない。でも不思議なのは、同級生の誰もが彼を覚えていないこと。

「お前の記憶違いじゃない?だって名前もわかんないんでょ」

ひとり同窓会を抜けて夜空を見上げる。昨日と何も変わらない一日が続いている。ついさっき、自分の国の戦闘機が聞き覚えのある町を爆撃した以外は。

だからさ、これ、なんて言うんだっけ。たしかに感じる彼の眼差しが、やっぱり曖昧に笑っていた。
その他
公開:21/02/01 17:29

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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