幸せの期限

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混迷の時代、イザという時の為に人々は身に余る幸せがあれば幸福銀行に預けた。
受付で渡された受話器に幸せを吹き込む。その分気持ちは少し落ち込んだ。
結果家庭から笑顔が減り、社会からも活気が減った。
結果さらに僅かな幸せをも後に取っておこうと預け入れが進む悪循環となっていた。
笑顔の消えた人々が行き交う中、享受した幸せをしっかり謳歌する者はいた。
「幸せを貯めもせず使い切るなんて…何を考えているんだ」
「まるでキリギリスだ。無計画にも程がある」
そんな陰口が尾をひいた。

「幸福銀行が危ない」そんな噂が発端だった。
吹聴は瞬く間に広がり取り付け騒ぎへと発展した。
混乱の中、引出した人々は「全然幸せにならない」「幸せの質が落ちている」と怒りの声を上げた。
「幸せを後から味わう事なんて無理な話だ。気づけた僕は幸せ者だ」
人々が押し寄せるカウンターを尻目にあの日のキリギリスは噛み締めていた。
SF
公開:21/02/01 14:48

吉田図工( 日本 )

まずは自分が楽しむこと。

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