謎のおじさん

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「おい、なんだあれ?」
俺が助手席から前方を指差すと、運転手の雄二はスピードを落とした。
「外人の……おっさんだな」
 おっさんは長靴に灰色の外套をまとい、反り返るように姿勢を正して右手をまっすぐにあげている。 
 どこかで見たことあるなと思っていたら窓を開けて雄二が叫んだ。
「おい、あれクラーク博士じゃね?」
言われてみればそっくりだ。
 雄二が車を止めると、おっさんは近づいてきて「若者よ!進め!この手の示す方へ!」と、上りの道を指し示した。
「俺らもう帰るんで」
雄二は下りの道にハンドルを切った。
「あっ!」
クラーク博士が叫んだとき、俺たちの乗った車は道の真ん中に空いた大きな穴にはまって動けなくなった。
「だから言ったではないか」
クラーク博士はそういいながらも「若さゆえに迷うことも心理への道」
と、一人で納得した。
俺たちは車から這い出ると叫んだ。
「誘導員なら誘導員って言えよ!」
その他
公開:21/02/02 21:12
更新:21/02/13 22:59

仁科佐和子( 愛知県 )

児童文学、エッセイ、小説などを書き散らかし、公募にいそしんでおります。

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