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自動販売機の前に血塗れの死体が転がっていた。
肉塊と化した女は、紫色のコートを着て、紫色のブーツを履いていた。
明らかに殺人事件だった。
が、湿度の高いこの街に住む人々にとって、他人の死など興味の対象ではなかった。彼等は俯きながら、爛れた憂鬱と共存するのに必死だった。
転がる死体をちらっと横目で見るだけで、無言で横切っていく。
街の組織はまともに機能していないのか、未だにパトーカーのサイレン音は聞こえてこない。
死体に近付いてみる。
顔面は青白く、様々なところが腫れ上がり、傷口から溢れ出た血は固まっていた。
「魔女だよ」
左隣で、くりくりした目の少年が事件現場を眺めながら言った。彼は泥だらけで、痩せこけていた。
「……魔女?」
「昨日、自動販売機の前で集会してた。あの人は遅刻したから、メリケンサックで殺されちゃったんだよ」
少年は綺麗な瞳で僕を見上げた。
「情報料頂戴」
ホラー
公開:21/01/31 21:59
更新:21/02/22 21:14

湿度文学。( 湿気の街 )

湿度の高い街に住む、救われたい住人の日常。

Twitterでも「湿気の街」について文章を書いたり、写真を上げたりしています。→湿度文学。( https://bit.ly/3bGzTe0

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