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「お前ぇもそろそろ得意な落語の一席ぐれぇ構えろや」
師匠が突然、私にそう言ってきた。
「俺の得意な落語、いつも横で聞いてたろ。ちょいとやってみな」
私は緊張しながらも師匠の十八番の落語を披露した。
「まだ少々硬ぇが筋は悪くねぇ…今日からその噺はお前ぇさんがやりな」
いいんですか!?
「ああ、得意落語を弟子に譲る。これはウチの伝統なんだ」
師匠からお墨付きを頂いた。
その日から私は高座に上がると師匠の十八番を披露するようになった。
師匠はと言うと実はもっと得意な噺を持っていたらしく、以前よりキレのある落語を披露していった。
「これも伝統だ」
と師匠はいやらしく笑う。

ある日私は師匠の師匠から呼び出された。
「お前ぇさんのその話…儂の得意落語じゃな…」
私は急いで頭を下げる。知らぬとはいえ、とんだ御無礼を!
「構わん構わん。儂がアイツに一番得意な噺をやらんかった腹いせじゃろ。これも伝統じゃ」
公開:21/01/31 20:45

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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