白菜のまち

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深夜、病院での仕事を終えて、疲れきった足で雨上がりの港町を歩く。
酒瓶を片手にぶらぶらと、神さまの家や仏さまの家、活気のある漁港は避けて、誰もいない商店街を抜けて坂道を上り、下り、隣町まで。
途中、霧に覆われた五差路で私は立ち止まった。前方がぼんやりと赤いものだから私は赤信号に違いないと思い長い時間その場に立っていた。私と同じように立ち止まった白菜がいたけれど、その白菜は新聞配達の途中で、やがて霧の五差路を突き進んでいった。
それからどれくらいたっただろう。空に朝を予感させる群青が見えはじめると、霧は晴れて、その五差路に信号などないことを知った。
赤く見えたのは背の高い泥酔した少年の顔で、彼は私にこの先どの道を選ぶのかを聞いた。
「白菜なら焼くか煮るか浅漬けしかないようなこの世界で、あとふたつを探すのが人生だろ」
かっけー。
思わず抱きしめた細身の彼は、赤ら顔の私を映すカーブミラーだった。
公開:21/01/29 16:06

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