殺人医師の日常的殺人

「助けて、助けてくれよ…」
　僕は"サイエンス"を閉じ、苦悶する男と目を合わせる。確かに…苦しそうには見える。
「俺が何をしたっていうんだ…」
　そう。男は特に何もしていないのにも関わらず――短い脚立の上に棒立ち、首にロープを巻かれ、手足を縛られ、不眠不休のまま半日以上――そのままの姿勢で立ち尽くしていた。男がバランスを崩した瞬間、彼は首を吊り、その人生を終えるのだろう。そう思う。
「何で…俺が…」
　説明する。「あなたは、吸っていたタバコを民家の花壇に投げ捨てましたよね？」
「そんな…お前には、何の関係もねえじゃねえか…」
「ええ…あなたは…運がなかった。それだけです」

　スマホにメッセージが届く。
『今夜は暇？　ご飯食べに行かない？』
　困ったな。彼の体力は今晩が限界だ。
『お願い』
　しかたがない。残念だけど、僕は今すぐ、彼を殺すことにした。
　脚立を蹴る。ああ、残念だ…残念だ…。