とあるクリニックにて。

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「今日はどうされました?」
白衣の中年医師は問診票に目を落としながら患者に尋ねた。
「胸が痛くて……」
若い女性が青白い顔で答える。
「なんだか食欲も出ないんです」
「いつ頃からですか?」
医師はカルテに聞き取った情報を書き込みながら機械的に言った。
「忘れもしません。2019年の1月27日からです。パソコンを見ていたら突然ものすごい衝撃を受けて」
女性は心臓を押さえて訴える。
「そのときは、うまく声も出せなくて」
女性は思い出すだけでも辛いといった様子で涙ぐむ。
「最近一番酷かったのは大晦日です。本当に辛くて涙が止まらなくて……」
ハンカチを握りしめる女性に医師は言った。
「残念ながら当院でできる処置はありませんねぇ」
「そ、そんなに珍しい病気なんですか!?」
「いや、全国的にかなりの症例が上がってるようですよ」
医師はめんどくさそうに呟くと病名をカルテに書き入れた。
『嵐ロス』
その他
公開:21/01/30 17:29
更新:21/02/13 23:01

仁科佐和子( 愛知県 )

児童文学、エッセイ、小説などを書き散らかし、公募にいそしんでおります。

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