童謡さっちゃんより

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「さっちゃんはね、『さちこ』って言うんだ、ホントはね」
保育園バスの中、さっちゃんはちょっと困った顔で私に耳打ちした。
「だけどさちこって言うと、ママに怒られちゃうから、今まで通り『さっちゃん』って呼んでね」

 お隣のさっちゃんとは3年生まで地元の小学校へ一緒に通っていたが、4年生の春休みに突然「遠くの学校に転校した」と聞かされて以来、連絡も途絶えていた。

 成人式の朝、隣の家から振り袖に身を包んだとびきりの美女が現れた。
「美保ちゃん、久しぶり!」
「ひょっとして、さっちゃん?」
美女はそう呼ばれると破顔した。
「親に性同一性障害がバレて、寮のある男子校に転校させられたんだけどさ。高校中退してバイトしまくって、去年海外で手術してきたのよ」
 元さちおくんの告白を聞き、全て合点のいった私の脳内で、あの曲が流れだした。
「さっちゃんはね、『さちこ』って言うんだ、ホントにね」
その他
公開:21/01/30 13:14
更新:21/02/13 23:03

仁科佐和子( 愛知県 )

児童文学、エッセイ、小説などを書き散らかし、公募にいそしんでおります。

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