さざ波

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ささいなことで妻と喧嘩をした。
頭を冷やしてくると告げて車を出し、気づけば海沿いを走っていた。

そう言えば腹が空いたな。

目についた適当な店で車を停めて入店しようとしたが、何か変だ。

やけに入口が小さい。

何だこの店、と思っていると、窓から店員らしき青年が顔を出してこちらを見て微笑んだ。

「どうぞ〜」

見つかってしまったなら仕方ない。
体をかがめて何とかドアをくぐり抜けると、中は普通の喫茶店だった。

注文から待つこともなくすぐに出てきたカレーを食べてみれば、なんと妻の作るカレーそっくりで、妙な居心地の悪さを覚えた。

食事を終えて店を後にしようとしたとき、ある事に気づいた。

「ん?」

ドアが普通の大きさに戻っている。

「お客さん、家に帰ったらごめんなさいするんですよ。そうそう、ここに来た時みたいに」

青年の声に振り返ると、その姿も店もなく、ただ静かな海が広がっていた。
その他
公開:21/01/29 21:31
更新:21/01/30 00:52

葉智 樹壱

葉智 樹壱(はち きいち)と言います。
よろしくお願いします。

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