波紋絵

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 池の水面に小石を投げると、波紋ができる。
 その波紋が消えぬ内に脳内のイメージを強く投影すると、波紋を構成する曲線が分解されて、イメージ通りの絵になる。
 そんな自分の特技を、瑠璃先輩は私にだけ披露してくれる。
 文芸部ではあまり目立たない瑠璃先輩が、眼鏡越しに真剣な眼差しで湖面を見つめ、石を投げる様はとてもカッコいい。
「杏南ちゃんもやってみなよ」
 そう言われて一度だけ石を投げたことはあるけれど、こうであって欲しいとイメージを膨らませる前に、波紋が先に消えてしまった。
 波紋なんて僅かの間に消えてしまうのだから、それまでにイメージを投影できる瑠璃先輩はやっぱりすごい。
 今日も先輩は波紋を使って、池の水面に薔薇で作られた城を描いてみせる。
「先輩、素敵です」
 私は思わずそう言っていたけれど、それが絵に対してなのか、瑠璃先輩に対してなのか、自分でもよく分からなくて、戸惑ってしまった。
ファンタジー
公開:21/01/28 07:41
稀比都市サーガ

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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