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見知らぬ少女に林檎を貰った。
真っ赤で、よく熟れた林檎だった。
まるで食べることを責めるかのように、室外機のファンの回転音が騒がしく回っていた。
やはり常識的に考えて、知らない人から貰った物なんて口に入れちゃいけないよね。タダより怖いものはないってよく言うし。
ただ、気になる。
これが普通の林檎なのかどうか。
だったらと思い、どぶ臭い路地裏で錆と黴だらけの壁を阿呆みたいに眺め続ける乞食に近付いた。
「これ……食べます?」
彼は僕の手から林檎を奪うように取ると、齧り付いた。しゃりしゃりと心地のいい咀嚼音が辺りに響く。
突然、彼の動きが止まり、食べかけの林檎を地面に落とした。
だらだらと涎を流し、頭を無茶苦茶に振り始めた。
「ああぁぁあぁ……あぶばあぁぁあああぁ……」
数分後、今度は何かに怯えるように膝を抱えた。
「止めてくれぇよぉ……」
やっぱり、食べなくてよかった。
ホラー
公開:21/01/27 23:38
更新:21/02/22 21:13

湿度文学。( 湿気の街 )

湿度の高い街に住む、救われたい住人の日常。

Twitterでも「湿気の街」について文章を書いたり、写真を上げたりしています。→湿度文学。( https://bit.ly/3bGzTe0

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