私が眠ったならば

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「あ、」

そう発するよりも先に彼のそばに芽生えたのは、リンドウ。
もう息を吸うことは無い彼に寄り添うように、彼女たちは次々に開花していく。
いつか彼が教えてくれた花言葉は、なんだったっけ。
ぼう、と私は考えるが、結局なにも出てこなかった。

愛おしい人よ。
さらりとしたその顔で眠るあなたを、夜の寂しさを隣に迎えて見送った。
ひんやりと私を包む空気は森からの贈りもの。
ここが星すらみえない、アスファルトの街ではなくてほんとうによかった。

愛おしい人よ。
あなたの眠りと共に草木はむくむくと顔を上げ、あなたをどこかへと運んでゆく。
私は入口の前に立つことしか許されず、足元にはあなたを型どったリンドウが揺れている。

愛おしい人よ。
私がここで眠るとき、青いヒヤシンスとなって私を迎えに来て。


空に瞬く星のカケラとして、宙を揺蕩う藻屑となりましょう。
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公開:21/01/28 23:23

こひま( 新潟県 )

文章を書くこと、絵を描くこと、写真を撮ることが趣味です。
浮かんだものを、浮かんだように書きます。
様々な色を持つ作品を綴れたら、と思っています。
 

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