停電の夜に

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 夜中に停電が起きたので、手探りでリビングにある懐中電灯を取り、明かりを点けた。
「ワアッ! 凄いよ!」
 同居している彼女がそんな声を上げた。
 見ると、懐中電灯の明かりに照らされた壁に穴が開いていて、奥に巨大な像が何体も屹立した庭園のような場所が見えているのだった。
「ねぇ、行って見ようよ」
 彼女の提案に、私は思わず頷いていた。なんの変哲もないアパートの壁の奥にこんな秘密が隠されていたとはと思うと、何だか興奮した。
 私は彼女と手を繋いで一緒に庭園の中に入った。
 そこは思った以上に広く、神様なのかどうかも分からない異形の像が何体も並んでいて何だか不気味だ。
「もう帰ろうか?」
 彼女に言われて私も頷き、一緒に後ろを振り返った。
 だが、そこにさっきまであった穴はなかった。
 それに気付いた途端、背後から何名もの大きな笑い声が聞こえて来て、私たちは足が竦み、動けなくなってしまった。
ファンタジー
公開:21/01/26 07:47
稀比都市サーガ

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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