合わせ鏡の男の子

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 合わせ鏡をして三十六番目に現れる見知らぬ男の子に恋をした。
 年は私と同じくらい。
 彼はいつも小説を読んでいて、よく見れば、それは私が好きだったり、気になって買おうとしている本だったりするのだった。
 合わせ鏡の男の子に気付いてから一週間が経過すると、彼も私のことに気付いてくれた。
「この本に興味があるんですか?」
「うん、その作家さんが凄く好きなんです」
 三十六枚の鏡越しでも、私と彼の言葉はよく聞こえた。
 会話はいつも好きな作家や小説の話で、尽きることはなかった。
 でも、そんな関係が一年ほど続いたある日、合わせ鏡から彼の姿は消えてしまった。
 私は悲しくて塞ぎこんでいたのだけれど、やがて憂さ晴らしとばかりに、入ったこともないバーを訪れた。
 そこで飲んだくれてやろうと思ってカウンターに腰かけ、バーテンの顔を見たら、合わせ鏡の男の子がビックリした顔をして、私のことを見ていた。
ファンタジー
公開:21/01/26 07:29
稀比都市サーガ

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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