三分前

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「三分前に戻してやろうか」
フードを目深にかぶった男が、僕の行く手を阻みながら言った。
三分前の惨劇。
目の前で女性がホームから線路に落下した。
その時、僕はただの傍観者だった。
「三分前に戻してやろうか」
男はもう一度訊いてきた。
僕は訝しながらも、黙って頷いてみた。
男は口許に嫌な笑みを浮かべたかと思うと、勢いよくフードを剥いだ。
目に飛びこんできた姿に悲鳴を上げたが、次の瞬間には男の姿は消え、視線の片隅で女性が今まさにホームから転落する瞬間であった。
僕はがむしゃらに手を伸ばし、女性の身体を引き戻す。
女性の重心がこちらに傾いたのを感じ、ほっと手を離した瞬間、誰かに身体を思い切り押された。
景色がスローモーションに流れる。
助けた女性が大きく口を空いて僕に視線をやっている。
落下していく僕の目に、フードの男が女性に近づく姿が映る。
意識が消える刹那、僕は三分前に戻れることを願った。
ミステリー・推理
公開:21/01/26 23:26

碧色あをゐ

引っ越しをして、通勤時間が増えました。
なにをしようか考えた末が今です。
日々に少しのスパイスを。

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