差分画像クリニック

診察室に入るといつものように上を脱いで上半身を晒して器具に向かう。顎を固定し両腕で支持棒を握る。部屋が暗くなって一瞬光るとすぐに明るくなった。
「どうぞ」と医師が椅子を示す。デスクトップに写真画像が映る。撮ったばかりの私の背中の写真だが、黒白の縞が等高線のように背中の凹凸を際立たせる。これは医師の発明した測定器で背中の表面状態を精密に撮る。背中の変化は体調を正確に現し、特に深層部の臓器の変化は背中に顕著に見られる。さらに脳や神経系統の変化も深層心理もよくわかるらしい。背中の詳細な変化を読み取るために毎回の撮影からその差分の画像を抽出するのが特徴的な技術らしい。
この医師にかかってもう一年になる。医師は今までの背中の差分画像を示した。差分画像は人の顔を描いている。それはまさに目の前の女性医師の顔であった。私は告白した「このところ先生のことが忘れられなくて毎晩夢にも見るほどなんです」