桜茶碗

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 その骨董屋で売られていたのは、桜で作られた茶碗だった。
 とはいっても、桜材で作られていたのではない。桜の花弁が組み合わされて作られていたのだ。
「いかがですか、お兄さん? こいつは中々出ない代物でしてね。『桜茶碗』なんて人は呼びますが、百年に一度、いや、二百年に一度出るかどうかっていう代物で。ただ、中々に我儘な一品でしてね、使う人を選ぶんですよ」
 白髪を後ろで束ねた店主はそう言いながら、私の前にズイッとその茶碗を差しだした。
 花弁の一枚一枚の形も色も実に綺麗だ。それが合わさって一つの茶碗となっている、その不思議さも相まって、私は思わず茶碗に触れていた。
 途端に、茶碗はパッと散って、ただの桜の花弁となり宙を舞った。
「残念ですが、お兄さんは嫌われたようですな」
 店主が笑いながら左の掌を表にすると、桜の花弁は素早くそちらに寄り集まって、再び例の茶碗の姿に戻ったのだった。
ファンタジー
公開:21/01/24 20:45
稀比都市サーガ

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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