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私は会社帰りに近くの花屋に寄った。
今日は妻と私が結婚して30回目の結婚記念日。
盛大に祝うつもりだ。
「いらっしゃいませ。何かお希望はありますか?」
「薔薇を30本包んで下さい」
「はい、かしこまりました。お客様、何かのお祝いですか?」
「ええ、今日は結婚記念日なのです」
「そうなんですか。おめでとうございます」
「ははは、ありがとうございます。妻には随分、苦労を掛けました。小説家としてなかなか芽が出なかった私が成功できたのも妻のお蔭と言って良いでしょう。私が「もう駄目だ。諦めよう」としている時も妻だけは「あなたは絶対に成功するわ。ただ、才能がまだ開花していないだけよ」と励ましてくれましたから」
「素晴らしい奥様だったのです」
「ええ、妻には足を向けて眠れません」
それから一時間後、私は自宅へ辿り着いた。
「さなえ、結婚記念日おめでとう」
そう言って私はそっと仏壇の妻に手を合わせた。
公開:21/01/23 22:01

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