龍息

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 溜息を吐くと幸せが出て行くとよく言うが、私の場合は溜息を吐くと小さな龍が口から出る。
「龍息」という先祖代々続く奇妙な特質なのだと言われている。
 龍は顔が狼、身体はイルカ、七対の足は前三対が獅子で、後ろ四対が鷲、尻尾は蛇という姿をしている。前身は薄紅の鱗に覆われていて、吐き出せば、小さいながらも元気よく雄叫びをあげて、ゆっくりと空へ向かって飛んで行く。
 医者の言うところでは、この「龍息」はどれだけ出しても身体に悪いことはないという。
「君の溜息が龍たちの通路になっているだけだからね。何も気に病むことはないんだよ」
 医者はそう言っていた。
 実際、私は今までに数え切れない数の龍を溜息と一緒に出しているけれど、身体が悪くなったということはない。
 ただ、初対面の人の前で思わず溜息を吐いてしまい、腰を抜かすほど驚かれることには、大学生になった今でも慣れない。
ファンタジー
公開:21/01/23 18:34
稀比都市サーガ

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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