ポンポン寒気船

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「ポンポンポン……」
この北の海では、冬から次第に春に近づくと音が聞こえる。どうも海鳴りなどではないようだ。
目撃者によると、固い氷で覆われた無人の船が突如海上に現れたという。初めは幽霊船か蜃気楼と思ったらしいが、その姿はリアルなので夢や幻などではないらしい。そして、作動音が途切れると何もなかったかのように忽然と船は海上から姿を消した。
「ポンポン寒気船」と名付けられた、その謎の船の構造を調査した海洋物理学者によると、ポンポン寒気船は、海の雪氷熱を運動エネルギーに変え、推進力にしている蒸気船らしい。
一体、誰が何のためにポンポン寒気船を造ったのか。人類に警告を発するために海の使者が遣わせた黒船だという喧々囂々さまざまな意見が飛び交うものの真相は不明のままだ。
今年も流氷とともにポンポン寒気船がやって来るーー。ただ、最近は地球温暖化の影響か、ポンポン寒気船が現れる頻度は減っているという。
SF
公開:21/01/24 07:01
海鳴り 雪氷熱 運動エネルギー 流氷 蒸気船

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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