引き金を引く直前(まえ)に。

0
1

 頭に自らピストルの銃口を押し当て、彼は嘆いた。



「私のやったことは、全部正しいじゃないか。これまで口先だけだった政治屋たちに成り代わって、民衆が求める政策を大胆に実行してきたのだぞ。経済も稀代の才能を持つ経済相の考えに従い、大きく改善した。民意を代表し、行動してきた私がなぜこんな目に合わねばならないのだ…」



 もちろん、大虐殺は許されるものではない。その点において、彼は完全に有罪であるし、万死に値する。一方で、政治面でも経済面でも確かな結果を残したことは、万死に値することとは別として、評価されるべきことだ。



 ──彼の唯一の失敗は「大衆がそこまでバカだった」ことに気づかなかったことだ。



“パン”と乾いたピストルの音がなり、ヒトラーの意識は闇に落ちていった。
その他
公開:21/01/24 02:07
戦争 政治家 経済 ナチス

comsick( 京都 )

星新一が大好きな、ディレクター&ライター。仕事では主に経済を扱っていますが、創作では色々挑戦してみたいなって、思ってます。

※メインの媒体は「カクヨム」です。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054880314308

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容