さりげない選択肢

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「研究室」のドアを開けると配管工はいた。研究室とは名ばかりの窓のないコンクリートの作業室。スチール棚に無造作な工具。
配管工は拾ってきた部品で機械の修理を請け負う。こちらが本業のようだ。
「横になって」と彼はびっこを引いている俺の脚を見て粗末なベッドを指した。どさっとベッドに寝ると俺の脚を掴んでコードを巻き締め、膝関節のあたりをねじって下肢を引き抜いた。外した膝から下を何かの装置に取り付ける。何をしているかと聞くと膝のトルク調整だという。
「これは交換だな」と言う。次に俺の鎖骨のあたりを打診し、右腕を肩からぼそりと抜いて「こいつもかなり傷んでいる」と言って研磨機に当てて磨き出す。
「これも新品と交換した方がいい」
「金はないぜ」と言うと、「じゃ腕か脚のどちらか一本だな。値段はこれ」と配管工が言う。提示額に俺は唸って考え込んでしまった。
配管工は続けて「上肢か下肢か、それがお前さんの選択肢」
その他
公開:21/01/22 09:33

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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