幸せを運ぶ花

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寒さの残る3月、仕事もお金も住む場所も失った。
ポケットに手を入れると昔、母から貰った花柄のハンカチが一枚入っていた。
公園のベンチに座る。
隣に座るお婆さんは掌から血を流していた。転んでしまったらしい。
私はポケットからハンカチを取り出し掌に結んであげた。
お婆さんは礼を言い、桜の花びらの形をした小さな皿をくれた。
空腹を紛らわす為に公園の蛇口で水を飲もうとしたが、かじかんでうまく飲めない。さっき貰った皿に水を入れて飲んでみた。
足下を見ると私の口から零れ落ちた水を野良猫が舐めていた。
皿に水を入れて猫に飲ませてあげた。飲み終わると猫は大きく背伸びをした。
すると猫が広げた肉球の間から小さな種が転がってきた。
私はその種を植えた。
1年後の桜が咲く頃、私はその種から咲いた花で猫の不治の病に効く薬を発明し、仕事とお金を手に入れた。
そして、膝の上にはあの時の猫が気持ちよさそうに眠っている。
ミステリー・推理
公開:21/01/23 15:07
更新:21/01/25 14:26

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