ストーブン

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寒い冬がやってくると、この田舎ではストーブンがどこからともなく飛んでくる。
外見はカナブンのような金属光沢がある昆虫だが、赤く発光して暖かい。それが、まるでストーブのようなので「ストーブン」と呼ばれている。
ストーブンを何匹か捕まえて巾着袋に入れ、携帯カイロの代わりにしようとする人がいる。
しかし、こういうとき、カナブンと姿の似たカメムシが危険を感じて悪臭を放つ習性があるように、ストーブンも灯油臭くなるので要注意だ。
真っ暗な夜に飛び交うストーブンを見ると、ホタルのように光って幻想的で美しい。この田舎では季節の風物詩となっている。
また、樹木にとまるストーブンが光ると、クリスマスツリーのように優雅な雰囲気を醸しだすイルミネーションだ。
さらに、正月には、無数のストーブンで金網を熱し、焼き餅を作って食べる。
そして、春が近づくと、ストーブンの死骸を集め、神社で感謝の気持ちを込めて供養する。
その他
公開:21/01/22 19:37
カナブン 昆虫 ストーブ 巾着袋 カイロ カメムシ 灯油 ホタル 神社

SHUZO( 東京 )

1975年奈良県生駒市生まれ。奈良市で育つ。同志社大学経済学部卒業、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修了。
田丸雅智先生の作品に衝撃を受け、通勤中や休日などで創作活動に励む。
『ショートショートガーデン』で初めて自作「ネコカー」(2019年6月13日)を発表。
読んでくださった方の琴線に触れるような作品を紡ぎだすことが目標。
2022年3月26日に東京・駒場の日本近代文学館で行われた『ショートショート朗読ライブ』にて自作「寝溜め袋」「仕掛け絵本」「大輪の虹列車」が採用される。

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