アルコールランプ

10
4

薄暗い間接照明に照らされたバーのカウンターにはなぜか、アルコールランプが置いてあった。
「理科の実験でもするのかい?」
俺はマスターに軽口をたたく。
「こいつはね、魔法のランプなんですよ。」
「魔法のランプ?こすると魔神でも出てくるのかい?」
「いいえ。火を灯すと思い出を見ることができるんです。」
マスターはそう言うと、ライターを俺に差し出した。
 半信半疑で火をつけると、店内は思いのほか明るくなる。
 ふと隣を見れば、そこには先月別れた妻が立っていた。
「平日から呑んでばっかり!いいご身分ね!!」
別れた原因となった元妻の暴言は思い出の中でも健在だ。
慌ててアルコールランプに蓋をして火を消すと、妻の姿も消えた。
「どうせならいい思い出を出してくれりゃいいのに。」
苦言を呈する俺に向かってマスターは困ったように答えた。
「アルコールランプに入ってる燃料のメタノールは有害なんですよ。」
その他
公開:21/01/20 23:13
更新:21/01/20 23:25

仁科佐和子( 愛知県 )

児童文学、エッセイ、小説などを書き散らかし、公募にいそしんでおります。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容