未完の絵師

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 私の絵はいつでも未完にしないといけない。
 完成させてしまうと、画用紙から絵が抜け出してしまうから。
 理由は不明だ。
 でも、小学生の時に初めて描いた兎さんは、最後の一筆を描き終えた途端に画用紙から抜け出てどこかへ行ってしまったし、中学二年生の時に描いた黒いドラゴンも、最後に尻尾の部分を描き終えたら、黒炎を口から出しながら、天空へと飛んで行き、二度と帰って来ることはなかった。
 苦労して描いた絵が消えてしまった後に残された、まっさらな画用紙を見ることほど悲しいものはない。
 でも、私は絵を描きたかった。だから未完の絵を描き続け、気付けば絵描きになっていた。
 芸術にとって世知辛い世の中だけれど、その中で私の「未完の動物画」はなぜか受けがよく、注文はありがたいことに途切れない。
 それもいずれ廃れるのかも知れないけれど、今はまだ、自分の絵に居場所がある分、気分は楽だ。
ファンタジー
公開:21/01/20 21:32
稀比都市サーガ

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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