団扇とソーダ水

久々に団扇を見た。
東京のマンションに拘る家族の願いに屈して買ったマンションは駐車場、ケーブルテレビ、インターネットそしてジムまで完備というのが売り文句。
夏はAI搭載のエアコンが一日中動いているので暑くないというわけだ。
ふと入った焼き鳥屋で注文をしようと焼き場を見上げた時だった。
焼き台に串を並べ、炭に向かって風を送っている右手に先端が擦り切れた団扇が目に映った。
その昔、団扇はどの家庭にもあった。
手軽にすぐに風を得られる利点はいまどきのAI機器より上だ。
団扇で扇いでいると夏の日の縁側が頭に浮かんできた。
パタパタやって手が疲れたと思ったら飲むのがソーダ水だった。
やっと日陰になった縁側で横になり、扇いではストローを咥え、傍らで寝ている猫に風を送ってやる。
「にゃー」
と喜ぶ猫毛の白と横にあるソーダ水の緑がくっきりと映っている。