村はずれにて

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「ショウカって、昇るに華って書くんだとさ」
「ほええ、じゃあ、うちの太郎は、どっかに浮かんで咲いとんのかね」

長い冬を割って出てきたお日さまが、根雪を溶かし始めた春の日だった。奥間にずっと籠ってた一人息子が忽然と消えていた。

遅くに授かった子供だっただけに、愛情をぶっかけるように育ててきたのに…。老夫婦は懸命に捜しまわるも宛ては尽き、村はずれでいよいよ膝をついた。目の前には地蔵さん。息を吐くように手を合わせると、なんと、あちらも頭を下げてきた。

驚く間もなく、地蔵さんからは湯気が立ちのぼり、被っていた雪を一気に溶かした。そして自身の体も空気に溶けるごとく消えていった。頭、肩、腹…。残ったのは、とおい昔ぶりの地面だけ。

「見えねえけど、おるんだよなあ」
「んだら、はじめっから、いねかったんかもねえ」

村はまた雪の季節だ。地蔵さんと同じく手を合わせ、老夫婦はほとんど雪に覆われている。
ファンタジー
公開:21/01/21 23:07

糸太

400字って面白いですね。もっと上手く詰め込めるよう、日々精進しております。

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