子守唄

0
1

寝るのが、怖い。
次目を閉じたら、二度と目覚めない気がする。いや、知っている。もう、寿命なのだと。いつ永遠の眠りについても、おかしくはないのだと。
分かっている。頭では理解している。でも、怖いものは怖いのだ。
(雷ジジイと近所の悪ガキ共に怖がられとるわしが、何ともまあ、情けない)
こんなに何かに恐怖するなど、子供の頃以来だ。幼い頃から気の強いタチではあったが、どうしても母には敵わなかった。
(…母、か)
ふと瞼の裏に、今は亡き母の姿が蘇る。優しく、こちらを手招いて。

どうしたの。早く寝なきゃ駄目でしょう。
やだよ母ちゃん。怖いんだ。怖くて眠れないんだ。
あら、仕方の無い子ね。なら、そうね…子守唄、歌ってあげましょうね…

優しい、懐かしい、歌が、音が、頭の中に響く。あぁ、母ちゃん。
「…もう、怖くないよ、母ちゃん」

次の日、親戚が見つけた息を引き取った彼は、大変安らかな顔で眠っていた。
その他
公開:21/01/20 09:49

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容