不動態皮膜の壁

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オフィスで同僚の村野が突然立ち上がって大声をあげた。「大変だ!この壁を破って何かやってくる!」
彼の席が向かい合う壁を指して言った。壁の向こう側はエレベータホールだろう。何もやってくるはずはないのに。ざわついて七、八人集まった。壁が振動する。上司が言った。「この壁は不動態皮膜処理が施してある。何がやってきても大丈夫だ」壁の振動は激しくなり亀裂が走った。一同はさっと引いた。
メリメリと硬そうな鋼鉄が頭をあらわした。グリグリと棒状のものが突き出てきた。鋼鉄製の棒は壁を破ってきた。壁材の粉とともに湯気が立つ。熱い棒らしい。「セクシーだわ」女子社員がささやいた。伸びた棒が震えてピピッと音がした。信号音か。
「了解しました」村野が棒に言った。「その件は明朝一番に取りかかります」棒はするすると引っ込んだ。「クライアントからの連絡。スケジュール確認でした」村野はみんなに説明した。壁には亀裂と穴が残った。
その他
公開:21/01/18 10:06

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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