忘郷のち帰郷(解)

｢本当に面倒な事件ッスね、おやっさん｣
｢ああ、全くだ。こんなド田舎のダムで、マフィアのボスの死体が上がったなんてな｣
｢外傷は特に無いッスけど、自殺ッスかね？｣
｢バカ言え。こいつはつい先日、あのマフィアのボスになったばかりだ。トップに上り詰めてこれからって時に、自殺する理由がない。周辺に遺書も無いし、事故と他殺を疑う方が先だ。どうせ、同業者との抗争か内部抗争か、その辺だろうよ｣
｢でも、噂じゃ警察のお偉方には既に圧力が掛かっているらしいッスよ？｣
｢まあな。ボスを失った奴らからしたら、変に事を長引かせて組織の力を弱くしたくないんだろうよ｣

｢それにしても、皮肉なもんだな。このダムは政府の公共工事で10年前に完成した物だが、実質、あのマフィアの先代のボスが政府に圧力を掛けてゴリ押しで作らせたような物だ。人知れぬ集落がいくつダムの底に沈んだ事か……これも、ある種の因果応報ってやつかねぇ｣