留守番の条件

母は女手一つで私を育てる為、朝早くから夜遅くまで働いている。
だから同じ家に住んでいながら私は中々母に会う事が出来ない。でも、寂しい思いはしていない。
母は毎日、留守番電話にメッセージを録音してくれている。
『料理の腕、また上げたわね。このままじゃ母さん負けちゃうかも』
少しでも母の為にと家事を覚えた甲斐があった。褒めて貰えた。
『でも成績は下げちゃダメよ。勉強もしっかりね』
お小言でさえ、クスリと笑ってしまう。
「今日の夕食は唐揚げだよ。自信作だから残さず食べてね」
私も寝る前に母にメッセージを残す。その日にあった事を目いっぱい録音する。無機質なやり取りではあるが私はこの行為が大好きだ。
僕もそんな二人を見るのが大好きだ。だから絶対にメッセージを届ける。長い話も一語一句漏らさず感情と一緒に伝えるよ。
だって僕は留守番電話。家を守ることは出来ないけど、二人の仲を取り持つことは出来るよ。