森の奥

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こんもりと茂った木々が広がる深い森の奥に瀟洒な白い建物がある。宇宙線中性子研究所である。研究所所長を一人の記者が訪ねた。
「宇内博士、本日はご多忙の中、ありがとうございます」
「暇だよ」
「昨年はヘーベル賞の受賞、おめでとうございます」
「副賞のヘーベル賞飴を一つあげよう」
「重ね重ねありがとうございます。受賞のご研究について教えてください」
「ここは宇宙線中性子研究所でね」
「はい、立派な看板を拝見しました」
「宇宙からの中性子線をつかまえたんだよ。この亀で」
「立派な亀ですね」
「ただの石亀だよ。こいつを箱に入れて観察したら甲羅がタムタムと鳴った」
「それで?」
「大発見だよ。三十年前だ。理論では五十年に一度のタムタムだ。あと二十年後にしか鳴らない」
「はあ、どうもありがとうございました。博士、揮毫を一つお願いします」
宇内博士は筆にたっぷりと墨をつけて色紙にしたためた。「退屈」と。
その他
公開:21/01/17 09:51

たちばな( 東京 )

2020年2月24日から参加しています。
タイトル画像では自作のペインティング、ドローイング、コラージュなどをみていただいています。
よろしくお願いします。

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