世界一幸運な男

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 男はイオンの出入口付近のバス停で、時刻表のアクリル板を見つめながら、これまでの人生を思った。
「…ひでえ人生だ」
 そう。男は生まれつき物覚えが悪く、体力もなく、努力が報われた機会もなかった。
「…幸運なコトなんて、一個もねえや」
 そう呟いた瞬間――男の視界の隅で、巨大なガソリントレーラーが通り過ぎた。トレーラーが猛スピードで大勢の人々を轢き倒しながら、イオンの出入口に突っ込むのを――男は見た。見て、聞いてしまった…。
 轟音、ガラスの割れる音、子供の悲鳴、巨大な火柱、十字の爆炎…男はなおも、見続けた。
 自分のすぐ足元に飛び散った人の臓器や、濁流のように流れる血の川や、焼き切れた首や、火ダルマになって助けを叫ぶ老人を見た…。

 ケガひとつない男は、その瞬間――確かに、世界一の幸運に包まれていた。これまでの不幸を帳消しにしてなお余りある幸運を、男は、身を震わせて実感し、息を飲んだ…。
ホラー
公開:21/01/13 23:44

IiSees

ショートショート好き。
得意ジャンルはホラー。
座右の銘は『清く正しくいやらしく』。
好きな書籍は『悪魔の辞典』と『悪魔の寓話』。
制限400字という発想に感銘。
コメントとフォローはできるだけ返します。

楽天ブログにて『株式会社SEES』の名でショートショートと短編小説掲載中。
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さて、今日はどんな事件が起きることやら……。



 

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