ピサ行きの列車で隣に座ったおじさんに慰められた思い出

　イギリスのイースター休暇はとても長い。それは日本人にとってのゴールデンウィークのようなものだろう。
　そしてこの時期、多くのイギリス人が旅に出る。僕もイギリスに住んでいた頃、この休暇中にイタリアへ出掛けた。
　そして、これは出来れば避けたいけれど、僕にとって旅は同行者としていつも何らかのトラブルを伴う。この時もピサ行きの列車で切符にスタンプを押し忘れて、５０ユーロの罰金を払う羽目になった。
　その後、僕は席に座ってしこたま落ち込んでいると、隣にいたおじさんが「兄ちゃん日本から来たのか。俺もトヨタに乗っている、あれは良い車だな」というような事を言って僕を励ましてくれた。でもそのおじさんは殆ど英語が喋れなかったので、だいぶん僕の推測が入っている。
　その時は悲しい気持ちを引きずりつつも、見ず知らずの旅行者を慰めてくれるイタリア人の優しさに嬉しくなり、僕は口角だけを上げてぎこちなく笑っていた。