後藤さんの憂鬱

後藤さんは悩んでいた。
　
片方は焦げ茶色のルックスが美しい。 もう片方はなめらかなクリーム色にサーモンピンクが良く映えて上品な出で立ちだ。
　
　かれこれ10分ちかく悩んでいる後藤さんを、やや呆れ顔で見つめていたその人はクリーム色の方を指し「こちらはいかがですか？ 今一番人気ですよ」とアドバイスをしてくれた。 なるほど。しかし『一番人気』というのがいささか気にくわない。
大多数が好むということは個性のない平凡なモノという事…とはいえ、慣れないモノに手を出して、失敗したとなれば貴重な時間を捨てたようなものだ。 ここは慎重に熟考せねば後悔するーー後藤さんは更に悩むこととなった。助け船を出したその人は肩を竦めて離れていった。
　
　『焦がしカカオの醤油メレンゲパスタ』にすべきかそれとも『サーモンのアスパラクリームパスタ』にするか。
後藤さんはここからさらに10分悩むことになる。