（コント）ポケットからぎゅうです！

手を振りながら僕の元に走ってくる彼女のポケットから小さな牛がこぼれ落ちた。牛は道に降り立つとモゥと一鳴きした。しかし彼女はサラッと牛をポケットにしまった。
その後、煌びやかなイルミネーションの街路樹を歩いた。彼女との初デートは手をつなぐかどうかでドキドキすると思っていたが、まさか彼女の腰辺りから聞こえてくる鳴き声の方が気になるとは。いや、空耳だ。僕は彼女と手をつなぎたいんだ。
「あの、さ」
「何？」
「モー」
「手、つないでもいいかな」
「モー」
「え？聞こえないよ」
「手を」
「モー」
「つな」
「モーゥー」
「何だよ！」
彼女は驚いた表情を見せた。
「ゴメン、牛の鳴き声が」
「ばれちゃった？父さんが一緒に来てるの」

父さん？僕は彼女から一歩引いた。彼女はため息をついた。
「あなたも差別主義者なのね」
彼女はポケットから手を出して僕を狙った。

そう、ポケットからじゅうです。