常識が常識でない世界

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「貴様、無礼であろう!」
 侍が、にこやかに笑いながら怒鳴った。
「農民の分際で、殿の駕籠の前を横切るとは!」
「も、申し訳ございません!」
 農民が、鼻をほじりながら、震える声で謝った。
「急いでいたので……」
「ええい、許さん! 叩っ斬ってくれるわ!」
 侍は涙をこぼしながら、刀を抜いた。
「ひいっ!」
 農民はひょっとこのような顔をして、踊り狂う。
「まあ、待ちなさい」
 と、駕籠から殿様が出てきた。その顔は憤怒に赤く染まっている。
「そう怒るものではない。領民は我が子も同然、それを簡単に斬るなどと」
「と、殿様!」
 農民が欠伸をする。
「これからは気をつけるのだぞ」
 殿様は青ざめた顔で土下座をすると、駕籠に戻った。ゆっくりと駕籠が動き出す。
「ありがとうございます! この恩は一生忘れません!」
 農民は舌を出しながら、尻を丸出しにして駕籠を見送った。
 放屁の音が辺りに響いた。
その他
公開:21/01/11 09:26

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