倶利伽羅の灯

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今年の引き牛は中止と、正式に決まったのは青葉の頃でした。
散り行く花を遠く眺める春が過ぎ、夏に期待を寄せていただけに、町は落胆に沈みました。
源平火牛まつり。木曽義仲公の火牛の計に倣い、松明を点した藁牛を引いて、男衆が町を疾駆します。浄化の炎で病の気も払ってくれようと、皆が願いを懸けたもの。致し方ない事です。それでも挑まず背を向けるのは無念でした。

夏が往き、秋が終わって山は枯れ、その上を雪が覆いました。
倶利伽羅峠は冬将軍に占拠され、白魔の布陣が拡がるばかり。シャベルを手に先知れぬ戦いを続けながら、かじかむ手を拝む様にすり合わせ。


烈しい雪が麓まで埋め尽くした夜、道の消えた峠にぽつり、灯る光がありました。
ぽつり。ぽつり。増える光は牛歩のごとく、踏みしめる様に峠を登り、やがて頂に達すると、そのまま駆けて行きました。
見上げた空に蹄の音。南天に赤々と角を掲げ、金牛星が燃えていました。
ファンタジー
公開:21/01/11 01:08
牛まつり 富山県小矢部市 源平火牛まつり ※引き牛は造語です。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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