アンドレ

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「寝坊した! 会社に遅刻しちまう!」
急ぐ男の前に、1頭の牛が立ち塞がった。
「乗りな」
「あ、あんたは?」
「通りすがりのただの牛さ。さあ、早く乗れ。急いでるんだろう」
「すまない」
言われるまま、男は牛に跨った。
「振り落とされないようにぎゅうっと掴まってろ! 牛だけに!」
ダッと駆け出す牛。
「おそっ! あの、もっと速く走れないんですか」
「ん? まあ牛だし」
「え~」
「本気を出せばもっと速く走れる」
「どれくらい?」
「100m15秒くらい」
「微妙」

その様子を二人の男がうかがっていた。
「間違いありません。脱走した牛のアンドレです。早速捕まえましょう」
「待て」
「先輩?」
「ここにはアンドレはいなかった。いいな」
「先輩!?」
「いくぞ。今日中にアンドレを見つけないと俺たちが怒られちまう。下っ端は辛いな」
「先輩」

二人の視線の先では、アンドレが道端の草を食んでいた。
その他
公開:21/01/11 19:24
牛まつり

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