おつかれ牛

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直方体の闇の中、リチャードは接眼レンズから顔を離して立ち上がると、徐に遮光カーテンを開いた。
「エリー、なあちょっと見てくれ」
額に手を当て首を振る。「疲れているみたいだ」
エリーは言われたとおりに顕微鏡の中を覗くが、レンズの奥に映し出されているのはいつも見ている放散虫の化石だ。

「とくに変わったところはないみたいだけれど」
「牛が見えるんだ」
「え?」
「緑の草原を、小さな牛が何頭も歩いているんだ」
エリーが怪訝な顔で何か言おうとするのを片手で制し、リチャードはマイカップにインスタントコーヒーを淹れる。

「少し休んだほうがいいんじゃない? 年末年始も働き詰めだったんでしょう」
「そうしようかな」
虚ろな意識でミルクを流し入れる。
と、突然リチャードが高笑いを始めたので、エリーは狂気を感じて思わず振り向いた。
「これなら君にも見えるだろ」

コーヒーの液面に、ミルクの牛が浮かんでいた。
その他
公開:21/01/11 20:00
更新:21/01/11 19:23
#牛まつり

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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