牛の畔で

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僕は牛さまのミルクで育った。ここに住んでる者は皆そうだ。
牛ヶ原は見渡す限りの白い草原で、寝転がると柔らかくて温かくて、ふわりとミルクの匂いの風が吹いている。草原にはまだら模様のように沼が点在していて、澄んだ水が空の色を映した。水の枯れた沼の洞窟には沢山の乳房がぶら下がっていて、遊び疲れるとミルクを搾って喉を潤した。
モオォーという角笛が響き渡ると、もう夕刻だ。さっきまで青く静かだった沼は夕日を映して赤く燃える。
夕飯を終えて部屋の窓から牛ヶ原を眺めた。月明かりが差した草原はミルク色に光って、まだら模様の沼は深い夜の色を映していた。スースーと寝息のような風が囁いて、草原が呼吸をするみたいに波打つ。
「ほら牛さまもぐっすりおやすみだ、坊主も早く寝ろ」
「うん。牛さま今日もありがとう。おやすみなさい」
乳白色の星が流れて思わず舌を伸ばす。ぴちゃんと舌に落ちた雫は、搾りたてのミルクの味がした。
その他
公開:21/01/11 11:43
牛まつり

むう( 地獄 )

人間界で書いたり読んだりしてる骸骨。白むうと黒むうがいます。読書、音楽、舞台、昆虫が好き。松尾スズキと大人計画を愛する。ショートショートマガジン『ベリショーズ 』編集。そるとばたあ@ことば遊びのマネージャー。

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