G-1グランプリ2021

2
9

先頭争いは『レッドベコ』と『アルファウシ』の2台に絞られた。
バックストレートから、鈴牛サーキット名物のヘアピンカーブに差し掛かる。
時速3km。穏速の世界で2台はデッドヒートしていた。
レッドベコのドライバーは咆哮する。頭1つ、抜け出した。
アルファウシのドライバーは舌打ちした。抜かれたことに対してではない。ここで速度を上げるのは愚策だ。
レッドベコはカーブから飛び出した。そのまま草を食む。サーキットの芝は、美味だ。
アルファウシは単身ホームストレートへ抜けた。ドライバーが鞭を出して、振り下ろさない。痛いのは可哀想だ。
フラッグが見えた。あと一息。そこでアルファウシの足が止まった。どよめく観客。ドライバーは人差し指を口に当てて客席を向いた。静寂が、訪れる。牛がアスファルトに寝そべり、寝息を立てていた。観客の顔が綻ぶ。

世界最速の牛車を決める大会は、今年も優勝者が出なかった。
青春
公開:21/01/09 19:12
牛まつり

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容