牛飼いの歌

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ある所に牛飼いの少年がいた。
生まれつき耳が聞こえずまともに話すことが出来なかった少年は、体の弱い母親の代わりに毎朝搾りたての牛乳を町で売り歩いた。
町の子ども達はそんな少年のことをいつもからかった。少年が言い返すとそれは言葉にならない獣のような叫びで、子ども達はげらげらと笑った。
少年は家に戻るといつものように牛たちを連れて丘陵にある草原へ向かった。少年は耳の骨に響く振動で自分の声を認識した。太く耳骨に響く音を出すと牛たちが言うことを聞いた。
草原につくと牛たちは自由気ままに草を食べた。少年はひとり丘の上に立ち、そこから見える景色を眺めた。町が豆粒みたいに小さく見えた。どこまでも広がる青い空を大鷲がゆったりと飛んでいる。そこに立ち、草匂う風に吹かれるといつも少年の口からは清らかな泉のように音が溢れた。頭蓋の上の方が震える音。
それは牛たちだけが知っている世界で一番美しい歌。
その他
公開:21/01/09 16:58
更新:21/01/11 18:39

ジョーク松山( 瀬戸内の海のどこかの港町 )

ジョーク松山です。
ひねもすまったりまったりかなあ

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